鉄欠乏性貧血について説明する前に、貧血とは何かということをまず知っておいてください。
貧血とは
貧血とは、赤血球数や赤血球の中に含まれているヘモグロビン(血色素)が減少した状態をいいます。ヘモグロビンは肺から取り入れられた酸素と結合して酸素を体内中に運ぶ重要な働きをしています。そのため、ヘモグロビンが減少すると全身に酸素が行き渡らなくなり様々な症状が起こってきます。
貧血の症状
貧血では全身に十分な酸素が行き渡らないため以下のような症状が現れます。
・息切れ
・倦怠感
・めまい、頭痛(脳の酸素不足)
・胸の痛み(心臓の酸素不足)
・顔色が悪くなる(ヘモグロビンの減少)
・疲れやすくなる
・食欲低下
貧血には鉄欠乏性貧血の他にも何種類かあります。後々の説明を理解しやすくするため軽く目を通してみてください。
貧血の種類
・鉄欠乏性貧血
体内の鉄分が不足することで起こる貧血のことです。 貧血のうち90%以上が鉄欠乏性貧血(本記事の主役)と言われています。
・溶血性貧血
赤血球が通常の寿命(約4か月120日)より早く壊れてしまうために起こる貧血。
・再生不良性貧血(国の難病に指定されている)
血液を作る骨髄の機能が低下し、白血球、赤血球、血小板といった全ての血球が減少する病気。赤血球も減少するため貧血となります。
・巨赤芽球性貧血
赤血球は骨髄の中でつくられますが、ビタミンB12や葉酸という栄養素が不足することで正常な赤血球が作れないために起こる貧血。
・腎性貧血
腎臓からは赤血球を作るようにと命令する「エリスロポエチン」という物質が分泌されています。腎臓の病気で腎臓の機能が低下すると「エリスロポエチン」の分泌量が減少し、赤血球数が減少することによって起こる貧血です。
・二次性貧血
血液の病気以外の原因で体中の赤血球が減るために起こる貧血。
以上のうち、圧倒的に多いのは鉄欠乏性貧血(貧血の90%を占める)です。では本題である鉄欠乏性貧血について解説します。
鉄欠乏性貧血とは
先ほどのおさらいですが、鉄欠乏性貧血とは体内の鉄が不足することによって起こる貧血のことです。
なぜ鉄が欠乏(不足)するの?
さて、ここからはなぜ体内で鉄が不足するのか?という理由を説明します。鉄が不足する理由には大きく分けて4つの原因があります。
①鉄分が十分摂れていない(鉄摂取量の不足)
食事から鉄分を十分に摂れていない。
②鉄分が体内に吸収されにくくなっている(鉄の吸収障害)
鉄分は胃酸の働きで吸収されやすい形になります。胃の病気がある人やガンなどで胃を切除した人は鉄の吸収が悪くなり鉄不足となります。
③鉄が過剰に体外に出てしまう(過剰な鉄損失)
胃・十二指腸潰瘍、悪性腫瘍などによる出血も鉄の排出量増加から鉄不足となります。また、女性は月経による出血で鉄が体外に排出され鉄不足となります。
④体が鉄分をいつも以上に必要とする(鉄需要の増大)
妊娠中は胎児の成長に鉄が多く必要になるため鉄不足が起こりやすくなります。授乳期では母乳の分泌に鉄が必要となるため鉄不足が起こりやすくなります。
鉄欠乏性貧血の治療薬
基本的に鉄欠乏性貧血の治療には、不足する鉄分を補うための「鉄剤」が処方されます。
鉄剤には、徐放性と非徐放性のものがあります。
*徐放性=薬がゆっくりと溶け出し、効果が長く続くこと
●徐放性鉄剤:
一般名:フマル酸第一鉄(商品名:フェルム®)
一般名:乾燥硫酸鉄(商品名:フェロ・グラデュメット®)
特徴:胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出(徐放)して、少しずつ体内に吸収されるようになっている。急激に鉄が溶けだして胃の粘膜を荒らすことがないためへの空腹時の内服が可能。*胃酸がないと薬の効果が出ないため、胃を切除した人には使えません。
●非徐放性鉄剤:
一般名:クエン酸第一鉄ナトリウム(商品名:フェロミア®)
一般名:溶性ピロリン酸第二鉄(商品名:インクレミン®)
胃を切除した人や胃酸の分泌が減少している人にも使用可能です。
鉄剤の副作用
・徐放性鉄剤、非徐放性鉄剤ともに、悪心、食欲不振、腹痛、嘔吐、下痢や便秘などの副作用が報告されています。
・鉄剤の使用で黒い便が出ることがありますが心配はいりません。
コメント